今回は「美容からがんまで 正しい健康情報の見分け方」という題で、医療メディア設計事務所の武藤さんが、コラーゲンや各種サプリ、マッサージツールなどの具体例に触れつつ健康情報を正しく見極める基本的な方法・考え方についてお話してくれました。プレゼンは初めて・・・と言っていましたが、具体例が充実しているなど情報量が多く、かつ内容がしっかり分類されてとてもわかりやすく、ためになる話でした。
最初の1分間スピーチのテーマは、「気になっている、またはおもわず買ってしまった、健康美容商品・サービス」でしたが、参加者たちは、特にサプリメントに対する関心が高いという印象を受けました。
さて、発表者の武藤さんは普段、患者さんに対する医療情報を取り扱う仕事をされているそうですが、その中で8割以上の患者さんは現在自身が受けている治療だけでは不安であると感じ、9割以上が治療のほかにサプリを摂取しているというデータがあるそうです。
それだけ普及している各種サプリではありますが、ご存知のとおり、あやしい商品も多く含まれています。サプリに関わる法律としては主に食品衛生法や食品表示法、薬事法などがありますが、中身についてはなじみが薄いのではないでしょうか。
まず、具体例としてL○daのという商品の、いかにも・・・な広告が紹介されました。(Ustream参照http://www.ustream.tv/recorded/9573728)これ、全体がきれいにレイアウトされていて、いろいろ特徴が書いてありますが、よく見ると・・・はっきりとした効能は何一つ書いてないのです。そう、あるのは、「羽でたたくようなタッピングが可能」という機能面の特徴や、ツボ押しにも使えるという用途(ある通販番組ではこの2つだけで1時間しゃべれるらしい!)、そしてゲルマニウムの純度・・・といったことだけ。武藤さんによれば、これはこうした情報だけを載せることで後は消費者に勝手にイメージさせる戦略だそうです。これが500万個も売れているというから、すごいですよね。そしてさらに、この商品の特許に含まれる内容について見ると、
・装飾機能と健康志向機能を兼ね備えた銀合金
・遠赤外効果による健康増進 治療効果を同時に実現することが可能
という2つのことが書いてあります。ここに、重大な落とし穴があります。実はこの2つ目の治療効果については「仮説」に過ぎないのです。
そう、実は特許というものは発明者を特定することが目的のものであって、科学的な効果を証明しなくとも取得可能なのです。
そこで、実際に効果のあるものを見極める、「ヘルスリテラシー」を高めることがとても重要になってきます。
武藤さんは、そのための「ワクチン」として、①レトリック、②生物学的知識レベル、③疫学、の3つをあげていました。これからそれぞれ見ていきます。
まず、レトリック。これは言語的な表現の工夫(誘導)に関することですが、具体的には、前述の「うたってもいない効果を想起させる」方法のほか、「3た論法」(使った、良くなった、だから効いた、という論法。科学的には全く意味がない)、「雨乞い療法」(雨が降るまでひたすら祈り続ける、つまりいつかは必ず・・・)、「成分の機能と商品の機能の混同」(製品の機能ではなく、科学的に当たり前の事実のみを記す。○○は△△に良い、など・・・)、エンドポイントのすり替えといった方法がよくみられるそうです。中でもショッキングだったのが、コラーゲンの話でした。消費者がコラーゲンを摂取する目的、つまりエンドポイントは、肌がきれいになりたいといったことのはずですが、ある商品に書いてあるのは、低分子で「よく吸収される」といったことだけ。ここで気をつけないといけないのが、吸収される=効く、とは限らないということ。本来は効くかどうかが焦点であるはずなのに、吸収されるなら効くだろうと、消費者が自分でエンドポイントをくっつけてしまうことを狙っていて、吸収についてしか言及していない。これがまさにエンドポイントのすり替えになります。
次に、生物学的知識レベルの話。ここでは、3た論法やエンドポイントのすり替えの話に加え、生物学における基本的な知見を持つことで、「低分子化したら吸収・再合成される」「単一の成分が体内の働きに大きく貢献する」といったよくある説明に対し、きちんと考えてみようとのことでした。
そして、疫学について。ここでは主に「分母で考える」「比で考える」「対象郡を考える」「適切な集団の選択」の重要性について話がありました。まず、「分母で考える」ですが、たとえば、「ある村では80歳のおじいちゃんが10人、うち7人が喫煙者。ということは、たばこを吸う人は長生きするのか?」といった命題があったとき、どのように考えるべきか。このような文章を見たときには、そこに明示されていない、背後にある「分母」についてきちんと考える必要があります。つまり、この例で言えば同じ村の同じ集団が、20年前には100人生きていて、そのうち喫煙者は80人くらいいたかもしれないのです。そうなると、喫煙者の方が死亡率は高いことになる。分母としてもともとの喫煙者の数(割合)がどうだったのかを考えないと、事実が見えてこないということでした。
「比で考える」というところでは、たとえば、「これまでの2倍の効果があります」や、「○○の含有量がこれまでの3倍です」と言った表現に気をつけましょうということです。たとえば、これも、10000人に2人くらい効いていたものが4人に効くようになった程度の話かもしれない。そうすると、消費者が受ける恩恵はあまり変わらないわけです。なので、できるだけ「NNT」という指標、何人に出せば1人治せるか、という単位に換算して考えることを推奨されていました。
「対照群について考える」では、例えばある患者に共通する特徴(食べていたものなど)があったとして、それが本当に原因かどうかはさらに対照実験をしなければ分からない、という点を指摘していました。「適切な集団の選択」については、例えばサプリメントの効果を調べるときに、いい結果が出たとしてもそれがもともと栄養失調の母集団に対して行われた実験であるなど、偏った集団に対する実験であったとすれば、それは必ずしもそのサプリに特別な効果であるとは言えない、という話でした。
ここで「研究デザイン」として、ある研究結果の信頼性の度合いに対する段階の表が出てきました。ここであh、研究室レベルの実験はかなり信頼性が低いのに対し、コホート研究、比較実験、ランダム化された比較実験(RCT)となっていくと信頼性が増していき、最も信頼性が高いものが「システマティックレビューとRCTのメタアナリシス」と紹介されていました。これを踏まえ、ある商品の効果の妥当性について判断するための健康情報診断フロー(東北大学の先生による)が出てきましたが、これによると、①(その効果について)具体的な研究はあるか?②研究対象は人か、または細胞や動物か?(細胞レベルの実験に比べて、人間レベルまでいくのは数万分の1!)③学会発表か論文発表か?④定評ある医学論文誌に掲載された論文か?⑤研究デザインは?⑥複数研究で支援されているか?・・・といった手順で診断していくといいようです。その後またコラーゲンに関する話がありましたが、実際に各種コラーゲン商品に肌をきれいにする効果があるかというと・・・・・。
考え方の話が一段落したところで、次に「健康に悪いもの」に関する話がありました。
ここでびっくりしたのが、発がん性評価。発がん性評価については危険な順に、グループ1、グループ2、・・・と分類されていくようですが、なんとアスベスト等に加えてタバコ、アルコールもグループ1に含まれます。つまり、何かの食品の発がん性などが問題だとニュース等でとりあげられたとしても、危険性でタバコやアルコールを越えることはない・・・ということです。
そして、たいへん興味深かったのが毒性試験。詳細は省きますが(Ustream参照)、急性的な毒と、慢性的な毒に分けて考え、慢性的な毒の影響についてサンプルをいくつかとったうちの一番低い濃度を測り、さらに、それに何段階も加えて安全域をかなり慎重にとった上で、厳格に決められた基準で統一されているようです。
ここで、たとえばニュース等で、「毒性が基準値を超えた」と言われるとき、実際には、それを一生食べ続けたときに影響が出るかもしれない量(の補正された数値)を少し超えただけに過ぎない、ということになります。
これは、危険性を厳しく見過ぎているかもしれないという話ですが、健康に良いとされるものについても、たとえば「無添加は本当にいいのか?」という話がありました。「買ってはいけない」等のメディアの影響もあり、「添加物といえば体に悪い」というイメージがお茶の間に浸透してると思われます。が、実際には添加物は前述の厳しい検査をクリアしているので、その点では安全と言えます。一方で、いわゆる「無添加」の食品に使用されている天然添加物の場合、前述の検査を受ける必要がないそうです。加えて、人工のものに加えて効果が薄いために、何千倍、何万倍もの量を使用していて、味にも影響が出ている。試験をしていない上に大量に使用されているため、実は「無添加」の方が危険な可能性があるというのは正直びっくりしました。健康食品等がなんらかの効果を持つというとき、その根拠というのは木の根っこの部分にあるものですが、そこを理解するには英語の論文を読んだり、自ら計算式に当てはめて計算を行うなどの検証が必要となるため、なかなか大変です。また、食べ物は数万個の化合物で構成されたものであるため、そのうち1つの成分だけを取り出してどうこう言えるわけではないことは胸にとめておきましょう。
以上、ヘルスリテラシーに関連するいくつかの話が出てきましたが、まとめとして、「食品に関しては、薬効を求めない」「利用する目的(エンドポイント)を明確に」「同一成分を長期間、一定量食べ続けるのは良くない」といったことが挙げられます。ここで、僕らのエンドポイントが何かと言ったら、それはきれいに、元気に、長生きすることになってくる。だからこそ様々な商品が出回っているが、多くの健康美容食品・製品はそれを実現してはくれない。ただし、市場規模はかなり大きいわけです。そこで、本当に効果を発揮できるサービスを作れないか、という話が最後にありました。
私達の身の回りには今非常に多くの健康美容食品・製品があり、それに付随する情報があふれていますが、そこから本当に効果的なものを見出すのは、とても難しい。そのためヘルスリテラシーが重要になるが、一方でそこにはチャンスもある。非常に学びの多い発表でした。