今回は尾藤さんに、ご自身の肩書きである「客員起業家」についてお話していただきました。
本題に入る前に、ウェブ界隈における、アメリカと日本の起業スタイルについての解説です。
まず、一般的なベンチャー起業の流れとしては、開発したサービスもしくはそのプランに対し、最初に、エンジェル投資家と呼ばれる個人投資家が支援します。その後、段階的に、ベンチャーキャピタルや、ファンドが次々に投資を行い、IPO(公開買い付け)を行う、というのが流れです。投資家としては投資時期が早ければ早いほど、リスクは大きいですが、廉価で株を買うことができ、将来の大きなキャピタルゲインを期待できます。
ここで、ウェブサービスの特徴として、ネットワーク外部性の働きが非常に大きいということが挙げられます。日本のオークションサービスはいろいろありますが、ぱっと思いつくのはYahoo!オークションです。ツイッターと同じようなサービスも多々ありますが、結局流行っているのはツイッターです。規模が大きくならないとお金にならないようなサービスも多い一方、最初に顧客を囲い込んで規模が大きくなると将来的にものすごく儲かります。そのため投資家のマインドは、「今すぐ利益を上げろではなく、企業価値を上げろ」ということになります。特にアメリカの投資家は「人気を出せば、収益化は誰かがやってくれる」という考え方が顕著で、起業家はとにかく人気あるサービスにすることに注力できます。
ところが、日本の場合、そのような風潮が、ゼロ年代を通じて盛んではありませんでした。そのためウェブベンチャーのほとんどが、まず小さく起業し、とりあえず受託開発を行っています。そこでは、いつかサービスを作るぞ!と意気込んでいても、日銭稼ぐので精一杯になってしまう場合が非常に多いそうです。そのためか、グーグルやアマゾンのような大企業は生まれていません。
そんな状況の中、現在アメリカの企業で採用されつつあるEIR:Enterpreneur in Residence = 客員起業制度を使っている、数少ない日本の企業の一つで起業準備をされているのが、尾藤さんです。
客員起業制度には、社内にプランを持って、見合う外部の方を起業のために呼んでくる場合と、自分のプランを売り込んでいって、社員として契約してもらう2パターンが存在します。どちらも順序としては、エンジェル投資家の前に入り、プロジェクトを支援してもらうイメージです。
起業家側からすれば、給料をもらいながら起業準備を進めることができることや、その客員起業を行ってくれる会社の人的・物的リソースをえられることがメリットです。企業側からすれば、初期段階で優秀な人材(あるいはプラン)を確保でき、当たった場合の持ち株比率が大きいことがあります。また、自社のリソースで行っていることで、打ち合わせなども頻繁にすることができ、成功確率を上げることにもつなげられます。もちろん、デメリットも双方であります。起業家側からすれば成功した時に大きく持っていかれる可能性もあること、企業側からすれば、失敗しても給料分は返ってこないことがあげられます。
新規事業では、どの段階で誰がリスクを取るのか、というのは難しい問題です。しかし、多くのウェブ関連の日本の起業家が、そもそも「新規事業による起業」というスタートラインに立てていないのだとすれば、この制度が果たせる役割は大きいのではないでしょうか。参加者からは「書生やパトロンのようだ」という感想が聞かれました。「生活費は俺が持ってやる、だからでかいことをやれ」という風潮が再び復活すれば、もっと日本は元気になるのではないでしょうか。