9/22地球を変える意外なやつら

今回は「地球を変える意外なやつら」という題で、三重県生まれで現在大気海洋研究所博士1年の山口さんが、地球温暖化のような、非常に多くの要因が複雑に絡む問題をどのように考えていくべきかについて、「メカニズムを知る」という理学的な視点からご自身の研究に関連する内容も交えつつお話してくれました。
まず、最初の1分間スピーチのお題は「地球温暖化問題は、ずばり何が最も重大な問題だと思うか(問 題と思わない場合はその理由)」 でしたが、地球温暖化問題がそもそも起こっているのか、本当にCO₂が原因なのかといったことについて慎重な意見が多かったように感じました。
この点に関し山口さんは、初めに今日の話は「地球温暖化論にだまされるな、という話ではない」「地球温暖化の原因は人間の出したCO₂だと思っている」と明言されたことが、意外でした。そんな山口さんは、普段は大きな船で海からサンプルを採取し、有毒ガスが出るし試料を持ち帰ってきて調べる研究生活を送られているそうで、人間社会とあまり関わりがないのでみんながどの点を問題と考えるかに興味を持っていると言われていました。
さて、地球温暖化のような問題を考えるときに大事なことですが、
・長い時間スケール
・広い空間スケール
から考えることが大事だと強調されていました。

まず、「長い時間スケール」についてですが、過去を知ることで、
①現在の位置づけがわかる
②ありうる未来に備える
ということが可能になります。
たとえば、今年の夏。いわゆる猛暑で、ニュース等で「地球温暖化が原因」のようなニュアンスの言い回しも聞きましたが、ちょっと待てよ、と。今年少し暑かったくらいで判断できる問題なのか、過去の気温の変遷を見なければわからないだろう、ということです。
そこで、何度か見覚えのある、世界の平均気温「150年」分のグラフが出てきました。これを見ると確かに温度はそれなりに上昇し、対応するCO₂のグラフ(昔の部分は化学的な方法による復元)も、20世紀の後半にどんどん増加していて、温度とよく一致しています。
しかし、これで簡単にCO₂が原因といえるのか。
ここで、「ジョジョ」の某キャラクターが言う「人間はごく短い時の流れでしか生きない人間の考え方をする」というセリフが挿絵つきで紹介され、会場は爆笑。
次に、IPCC報告書から、これも温暖化論の中でとても良く目にする過去1000~2000年分くらいの平均気温のグラフが出てきました。これを見れば、温室効果ガス濃度は人類が化石燃料を使い始めた過去150年頃から急上昇していて、北半球の平均気温の増加に対応しています。
ここまではよく聞きますが、さらに、時間スケールをのばしていきます。
6500万年前。恐竜が絶滅したぐらいの頃の大ざっぱ温度の復元と比較すれば、現在は寒冷化していることがわかります。そして、2万年前くらいが、過去1億年くらいの間で最も寒い時期となっています。これは、だいたい人類がマンモスと戦っていた時代。この頃は二酸化炭素濃度が現在の3分の1くらいだったそうです。
そして、1億年くらい前。恐竜が栄えていた頃にはCO₂濃度はとても高く、推定1000~
2000ppm(現在は380ppm)もあり、温度も高く北極に森林があったそうです。
ここで、地球温暖化問題の捉え方の話がでてきます。地球温暖化については、人類社会に及ぼす影響について問題意識があるわけですが、暑くなることそれ自体は実は問題ではないそうです。○○さんによれば、問題なのは、温暖化の「スピードが速いこと」。急激な変化により、風のパターン、雨のパターンが10数年のスパンで変わってしまえば、農作地域等が変わって、生態系も変わってしまう。こういったことが、問題なのです。
そして、過去に起きたことは、そのメカニズムがわかれば、未来にも起こりえるかどうか分かります。映画「デイ・アフタートゥモロー」では、温暖化で氷が解けて、海流のパターンが変わることで一気に寒冷化する様が描かれていますが、これは過去の例から起こりえることだそうです。
過去に起こった急な変化についてみていきます。まずは、8万年前から2万年前のグリーンランド。このときには、数10年で10度以上という現在よりもはるかに急激な気温上昇が、1500年おきに20回以上起きている、ということですが、原因は分かっていないそうです。次に、5500万年前の高温化事件。このときは大量の温室効果ガスが突如放出され、世界全体で5、6度の上昇がみられました。また、この場合は時間スケールも現在と同程度のスピードで起こっていて、結果的に大量に生物の絶滅が起こっていて、生態系が変わっています。これは恐竜が絶滅して以降最も温度が高い時期にもあたります。

次に、「広い空間スケール」で考える。
ここでは、地球表面(陸海空)だけでなく、宇宙を、太陽の影響を考えることや、地下に大量に住んでいる微生物が出す温室効果ガスの影響まで考えます。
たとえば、前述のグリーンランドにおける気温変化の原因として、太陽、地球磁場、銀河系の影響が仮説にあがっているそうです。太陽の光に量が変われば、地球の気候は変わる、太陽の磁場、地球の磁場の影響がある、と言われていました。また、実は太陽の黒点の数は、11年くらいとか、200年くらいの周期で変動しているそうで、黒点がないときには太陽の光が弱まっているそうです。さらに、温暖化CO₂原因説懐疑論でもとりあげられるらしい、宇宙線の量の話もありました。太陽の磁場で宇宙線の量が変わり、それによって雲の量が変わる、ということで、これも温度に影響しているかもしれないそうです。
ここで、山口さんの過去の研究の話。太陽・宇宙線が気候に与える影響を実証しようとしたもので、太陽黒点の少ない時期に注目したそうです。その結果、江戸時代頃は70年くらい黒点がない特殊な時代で、化学分析で復元すると、確かに気候に影響を与えていたそうです。ただし、太陽活動が弱い時期のさらに弱い時をねらってようやく影響が見えた程度であり、影響はあるものの、それほどでない、という話でした。ちなみに、太陽に黒点がなくて弱い時期というのは200年おきぐらいに起こるそうです。現在は前回から既に200年たっていて、実際、去年は弱く今年はやや強くなったという動向から、あと10年以上たてば弱くなる可能性があるそうです。

そして、ここからは現在研究されている「海底下生物」の話になりました。
海底からメタンガスがわいている写真があげられ、海底のさらに2000メートル地下くらいに微生物がたくさん(海や地中の10倍)いる海底下生命圏があり、地球環境に影響を与えている可能性がある、という話がありました。
その中で、古細菌アーキア(バクテリアと別の微生物、海底にいっぱい)という生物について、またまた某マンがの挿絵(海底にアーキアがたくさんいることについて、論文の先をいっていた!?)をはさみつつ、お話がありました。
この古細菌アーキア、海底下に棲むメタン生成アーキアであり、海底の堆積物にたまるとメタンハイドレートができるそうです。そのため、5500年前の気温変化の原因の有力な説の1つが、こうしてできたメタンハイドレード内のメタンがいっきに放出されたのではないか、ということで、今後このようなことが起きる可能性もあるそうです。このメタンの温室効果はCO₂の25倍あり、人間の出したCO₂で温暖化が進むと、メタンが出るスピードが加速され、その後さらに急激なスピードでの変化につながる恐れもあるそうです。
しかし、逆にこれを有効利用しようという動きもあります。
「メタン生成アーキアを利用したプロジェクト」として、海底下にCO₂を封入し、そのCO₂を使ってアーキアにメタンを作らせ、そのメタンを取り出して、再生エネルギーとして利用する・・・という壮大な計画があるそうです。まだまだ研究の初期段階だそうですが、期待したいところです。山口さん自身は、現在海底下に棲む微生物の能力を調べていて、今度南太平洋にサンプル採集に行かれるそうです。

以上、「長い時間、広い空間スケールで考える」ことで、いろいろな要因が見えてきて、対策に役立つかもしれない、という話でした。また、参加者からの質問に対する回答の中で出てきた話で、現在は温暖化は「成層圏の温度が下がる」という、CO₂の場合にしか見られないシグナルがあるという話が印象に残りました。また、2度くらいの温度上昇であっでも、CO₂が増えることで海がどんどん酸性になり、殻を作る生物が死ぬことで、それを食べる生物も死ぬ、といったプロセスでけっこう生物に対する影響があるという話もありました。
いろいろと極端な話を聴く中でだんだん地球温暖化懐疑論にかたむいていましたが、時間的・空間的に角度を変えてみてみることでいろいろ発見があることに気づきました。

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