今回の発表では、グレアム・ハーマンのオブジェクト指向哲学について紹介いたします。
21世紀に入り現代哲学では、実在論(人間の思考とは無関係にものが存在するという立場)が再評価されています。
その中心をなすのが、思弁的実在論やオブジェクト指向存在論と呼ばれる立場です。
これらの実在論的な潮流は、哲学の領域を超えて、建築やアートの分野にも影響をあたえています。
ハーマンは、こうした潮流の牽引役となっている哲学者です。
わたしたちが生きている世界には、本や机、iPhone、アメフトチームといった、さまざまな対象が満ちあふれています。
しかしハーマンによれば、わたしたちはこれらの対象そのものに直接的に触れてはいません。
わたしたちに現われているものは、対象そのものの言わば「翻訳」にすぎません。
それは対象の一側面であって、対象そのものではないのです。
対象そのものは、わたしたちに現われているもの以上のなにかをつねに隠し持っています。
対象そのものは余剰を隠し持ち、わたしたちに対する現われのさらに奥底へと逃れ去っているのです。
ハーマンはこうしたあり方を、「対象は退隠する」と表現します。
つまり、対象そのものは隠れているのです。
たとえばiPhoneは、いまあなたの手元で便利なツールとして機能しています。
iPhoneは、あなたにさまざまな情報をもたらし、あなたをおおくの人びとと結びつけてくれる便利な道具です。
しかし、これはあなたにとってのiPhoneのイメージにすぎません。
それは、iPhoneそのもののほんの一側面でしかないのです。
iPhoneそのものは、こうした側面以上のものをつねに隠し持っています。
それは、おおくのことを隠したままの、ミステリアスな存在なのです。
それゆえiPhoneは、とつじょあなたのイメージを裏切り、ジョブズでさえも予想しなかったしかたで暴走しだす可能性をつねに持っています。
対象は退隠している。それはミステリアスで、なんだかわからないものである。
したがって、対象はいつでもイメージを裏切って、反乱を起こしうる…
ハーマンによれば、世界はこのような対象で満ちあふれているのです。
こうしたハーマンの哲学について、簡単に紹介したいと思います。
参考文献
グレアム・ハーマン『四方対象』岡嶋隆佑監訳、人文書院、2017年。
グレアム・ハーマン「オブジェクトへの道」飯盛元章訳、『現代思想』2018年1月号所収。
【一分間スピーチのテーマ】
日頃からなにか不思議に思っていること、哲学的な問いのようなものがありましたらお聞かせください。
【発表者プロフィール】
飯盛元章
中央大学大学院文学研究科哲学専攻博士後期課程。
昨年度末に博士論文を提出し、現在、学位授与を待っている状態です。
アルフレッド・ノース・ホワイトヘッドを中心に形而上学について研究しています。
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